歌わない鳥

 

辛い事実だが、私は音痴である。

 

このことを受け入れるのには時間がかかった。

 

夫は歌が得意らしく、結婚当初はカラオケに何度も誘われた。

しかし、私が頑として拒否し続けたので、いつしかあきらめた。

 

思い起こせば、

初めて音痴を指摘されたのは小学生のとき

 

音楽の時間、

順番に前に出て歌うことがあった。

気持ちよく歌い終わって席に戻った私に、

隣の席の男の子が言った。

 

  ミケ子って音痴だな。

 

彼が言っていることが私には理解できず

スルーした。

 

そして中学生のとき

音楽のテストで、これまた一人ずつ前に出て歌うことがあった。

このときも私は自分の歌声にうっとりしながら歌い終えた。

席に戻ったところ、前の席の女の子が振り返って言った。

 

  ミケ子ちゃんて音痴だね。

 

デジャブ?

どこかで見た場面

どこかで聞いたセリフ

 

私が音痴?

 

胸に小さなトゲが刺さった瞬間だ。

 

そして高校1年のとき

クラス対抗合唱コンクールに向けての練習中

 

私は、後列の右端に立ち、大きな声で力一杯歌っていた。

指揮棒を振っている担任の先生は、もっと大きな声を出せという。

私はもっともっと大きな声を出した。

 

だけど私の左隣の女の子が

何というか、表現が難しいが、

右耳を塞ぐというか、右からの雑音で正確な音が取れなくて困っているようなそぶりをしているのが見えた。

もしかして、私の声が邪魔?

 

一気に思い出される小中学校の記憶

 

  ミケ子ちゃんて音痴だね

 

それから、私は人前で歌うことを避けてきた。

翌年以降の合唱コンクールの練習や、

校歌を歌う時も、

小さな小さな声で歌った。

 

社会人になって、二次会のカラオケが一般的だった頃は辛かった。

若手は率先して歌わなければならない。

歌が苦手な人なんて、まるで存在していないかのような空間。

音痴な人でも歌える歌を一生懸命探していた。

 

歌った後の、みんなの微妙な反応がいたたまれなくて、自分から笑い飛ばしたり。

 

頑張ってたなぁ。

 

今はそんな辛い思いをすることもなく、忘れていた。

先日、夫の仕事関係の人にあいさつをしたとき、

  奥様、ぜひ今度カラオケに行きましょう!

と久々にカラオケに誘われて思い出した。

夫は私の反応を心配そうに見ていたが、私も大人。

笑いながらスルーした。

申し訳ないが、その日は絶対に来ない。

 

でもね、

本当は私も、鳥のように自由に歌いたいのよ。

鳥には、音痴なんてないのかなぁ。